夜の騎士/岡部淳太郎
 

騎士が滅んでから
ちょうど五百年

都市では
あらゆることが日々忘却されつつあった
忘却
重力を喪失した頼りない飛行
かつて彼は戦闘を愛した
それは五百年前のこと
その日々の懐かしさ
その充実
その栄光
だが都市にはいかなる戦闘も存在しない
いかなる血も歓びにうちふるえることはない

それは五百年前のこと
彼の肉体は滅んだ
それは五百年前のこと
彼の星は滅んだ
いまは夜
にせの幸福に輝く夜
人々は夜から目をそらしつづけ
彼は夜の中にどろどろと溶けこみつづけ
そして彼は何も云わない
何ひとつ口には出さない
騎士の人生は人々によって口に出されることはなく
荒野と
都市の
そのへだたりは五百年では埋まらず
もちろん夜は暗く
夜は寒い
彼は
死してなお
大いなる混沌とともにあった



連作「夜、幽霊がすべっていった……」

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