飛ぶ夢など見なくてもいい/ホロウ・シカエルボク
 
調子を合わせた、「困ってるなら送ってくよ?俺は遊んでるだけだから、気使わなくていいよ」いいです、と私は笑顔で答える「散歩なんで」へえぇ、と男は間の抜けた調子で言う、「あんた変わってんね」そして私の腕を取り車に乗せようとする、あぁ、なんか面倒臭い人だ…私はその腕を振り払い、ガードレールを飛び越えてその向こうに広がる急斜面を全力で走り下りる、マジかよ、という甲高い叫び声が聞こえる、その声は車に乗る、私の降りる地点まで急ごうというのか、物凄い勢いで走り出す、この期に及んでまだ私は浮かれている、面白いじゃない…プリウスは結構頑張って着いてきた、本当に面倒臭いなと私は思い始める、私は完全にハイになっていた、ある地点で待ち伏せして、エンジン音が近付いてきたところで飛び出す、プリウスは慌ててハンドルを切り、私はすんでのところで山肌に身を逸らす、プリウスはガードレールを突き破り、谷底まで激しく転がっていく、ドラマなんかでは爆炎が上がるのだろうけど、一通り転がり落ちると、あとはもともとの静けさが戻ってきただけだった、私は崖下を覗き込み、手を叩いて大笑いした、夜の散歩は病みつきになりそうだ。


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