可不可/やまうちあつし
 
戻って
あるいは
記憶喪失になって

正直に言おう

誰にでも生き別れた
双子の片割れがいる

どこかの駅に置いてある
ピアノを黙って弾いている

仕合せについては
謝らねばならない
欲望については
切手を貼らず投函するとよい

ポストはぽっかり口を開けている
それは宇宙でひとりぼっちだ
届かない手紙でお腹いっぱいだ

むかしむかしあるところで
戦争というものがありました
これからもあるでしょう

詩は
誰でもないもののため
誰にも触れない城を築くため

詩人自身も触れない
そして途方に暮れる

日が暮れて
消失点まで伸びる影

それは
一本の樹木のように
満ち足りた絶望である

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