一人の女の人の/こたきひろし
一人の女の人のお腹の中に10ヶ月と余りを滞在した
そこから出るまでの間に
私は
何度蹴っただろう
彼女のお腹を
胎児の足で
宿借りの分際で
でも
私が蹴る度に
彼女は自分のお腹を
自分の手で触りながら
幸せそうな笑顔を
満面にしてくれた
そして女の人は
側にいた
男の人に言葉をかけた
あなた、あたしたちの赤ちゃんが
お腹を蹴ってるわ
と
すると彼は
女の人のお腹にそっと耳をくっつけて
私の存在を探ろうとした
私は無事に産まれなくてはならない
二人の為に
自分の為に
女の人の産道を通り抜けて
その間に
彼女に死ぬほど苦しい
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