呼ばれて振り返れば/こたきひろし
 
られなかった

事実か作り話か判然としないが
そこで落書き文はお仕舞いになっていた
私もお涙ちょうだいをしてしまった
結末はどうなったかとその先も読みたかったのに
作者はそれをしなかった

そう言えば
私の娘にも長く交際中の男がいると聞かされていた
娘には近い内に会わせるね、と言われていた
私は物分かりのいい父親を演じている

私はトイレから出た
そして駅の人込みに合流して改札を抜けた
お父さん
私は背後から娘の声を聞いた
驚いてその場に立ち止まり振り返ると
最愛の娘は私の知らない男と一緒だった
人の流れの中で時間が止まってしまったかもしれなかった

その時
私の眼を捉えた。娘の傍らにいた若者の姿に私は何ら親しみを感じなかった
運命の出会いの予測も感じなくて
たしかにどこかの馬の骨にしか見えなかったのだ



 
 

 
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