羽・廊下・絵本/石村
た。
「逃げて」と友だちがさけんだ。
わたしも走り出した。どこまでも続く廊下を。
わたしの姿が見えなくなつた。どこまで逃げて行つたのか。
チヤイムは鳴り続いてゐる。きつと、この世の終はりまで。
(二〇一八年十月十八日)
絵本
うすみどり色の表紙のその絵本には、わたしの知らないことがかかれてゐます。
わたしはその本を手に取ることができません。
絵本はずつとテーブルの上に置きつぱなしです。
旅に出ました。
旅先の宿で、女将さんが私を呼びとめ、「お忘れ物です」と言つてうすみどり色の絵本をわたしに手渡してくれました。
わたしは絵本を宿のテーブルに置いていきました。
家に戻ると、テーブルの上にうすみどり色の絵本はありません。
お茶を飲み、ほつとひと息ついてから、わたしは泣きました。
泣いても泣いても、泣き足りない思ひでした。
(二〇一八年十月十九日)
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