数年に及ぶ/こたきひろし
ずに安全運転だった
道は混んでいたから余計無理だった
だから病院に着いたときは
お袋いっちまってた
数年に及ぶ認知症の果てに
お袋が死んじまった
身内はみんなお見送りが出来たのに
俺だけ見事に遅れちまった
兄貴の嫁さんにはこっぴどく怒られた
責められてもな
と
思ったが一言も反論はしなかった
これが最後の親不孝かと
その時初めて泣き崩れた
実の兄と姉は何も言わなかった
親父の時は余裕で間に合ったのに何の因果だ
兄貴の嫁さんにはこっぴどく怒られたのに
血を分けた親族からは何も言われなかった
なんてたって餓鬼の頃から遅刻ばかりしていた俺の事だからと
怒る気が沸かなかったんだろう
数年に及ぶ認知症の果てに
死んだお袋はまさか親父の所へは
行かなかっただろうなという思いがその時俺にしたのは
確かだった
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