掌編二題/石村
 


  お月見


少女は青い服を着て

ひと晩ぢゆう恋文をかかずにゐた

姉さんの形見のコーヒーカツプに

月をうかべて


(二〇一八年九月二十五日)




  シヨパン


だれもゐなくなつた洋館を

秋がひさしぶりに訪ねてきた


白い風が北のたよりをはこんできた


生まれたばかりの鳩がちひさな涙をながした

あゝ これでもう何もかも

わすれてしまつた と


窓辺に置かれた蓄音器が

コルトオのシヨパンを奏でてゐる


(二〇一八年九月二十五日)






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