すれ違い/アマメ庵
 
彼女はほんとうは、登ろうとしていたのではないか

山頂の標識に手を触れると、もうすることはなかった
あたりは一面雲の中で、遠望できるはずの峰々も麓の集落も、
あるいはどちらが上でどちらが下なのかも、わからない
熊笹が作った尾根道を下り、樹林帯に入り、すこし歩いててベンチがある
そこで彼女と知り合った

彼女はひとりだった
雲の中の山歩きは心細い
われわれは、天気の話やら、これまで行った山の話やら、すこし話して
すこし笑って、
いくぶん食い違いはあったかも知れないが、
どうやら一緒に行動をともにすることになった

ふたりで歩くといくぶん風が出てきて、雲が流れるようになっ
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