光の欠片/服部 剛
 
三日前、一度だけ会った新聞記者が
病で世を去った
一年前、後輩の記者も
突然倒れて世を去っていた
彼の妻とは友達で
今朝、上野の珈琲店にいた僕は
スマートフォンでメッセージを、送信した

僕等がもし
地上に残された者達の一人なら
今日の舞台に立ち
何を語ろう

不忍池(しのばずのいけ)の無数の蓮の葉群から、運ばれて
僕の頬を過ぎる
秋の夜風よ
教えておくれ
日々は消化試合じゃないと

だから僕はいくつもの場面を、集める
あんな場面
こんな場面
腐っちまった僕の場面
淡い日向(ひなた)の母と子供の風景を
集め、飲みこみ、吐いて、吸って

そうして日々の仲間の
リアルな顔はあらわれて
あなたの瞳の裏側の
光の欠片(かけら)が
一瞬、視えた  






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