はい。/ヤギ
 
僕の住む街を走る地下鉄では
「携帯電話は心臓ペースメイカー等の医療機器に影響を与える恐れがあるので電源をお切り下さい。」
とアナウンスされる。
僕はそれが嫌いだ。
会社を揚げて携帯電話使用反対運動でもしていれば立派な会社だと思うけど、
そうではないし、第一車内では携帯電話の広告も結構多い。
安い言い訳と思うからだ。

いつだかカテキョ先の子と雑談中、携帯電話の話になった。
「病気の人がいるんだから切らなきゃ駄目だよ。」
と主張する彼に僕の考えを言おうかとも少し思ったが言えなかった。言わなかったのじゃなく。
それはその子が本当に心臓ペースメイカーを狂わせたら大変だと考えていたから。そして僕はこの子と同じくらいの時に持っていたものを無くしてしまった、と気づいたから。

この子と同じくらいの時の自分との約束を破って、それを指摘されたかの様に錯覚しながら僕は
「はい。」
としか言えなかった。
戻る   Point(1)