あの匂いのする/秋葉竹
1
枯れた桜の木のトンネルの下を歩く
破れ果てた網戸の運命のような青空の下
じぃ〜ん、じぃ〜ぃんと
死ぬまえの蚊のような、
けがれた沼の精のような、
虫がとんでいる。
青い血の結晶が眩しくて
飲み干したくて飛び廻るのだと
なにかで聴いたような、
あれって、AMラジオで、でしたっけ?
蝉の死体をみた。
悲しみの匂いもしなかった。
2
秋の夜長というので、
人気も少ない夜の公園ひとりぶらぶら
なにも考えないように散歩をしていたら
月にあいつの顔が見えたようなので、
ひとことだけでもいってやりたいことがある。
『かなしんでるふりをしないで』
って、ね。
AMラジオって、
あの世界にも、聴こえるらしいですよ。
私にも聴こえた気がした。
あの匂いのする声が。
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