京橋にて/大覚アキラ
 
徹夜明けにバスに揺られながらウトウトして
ふと見ると妙に見覚えのある景色
昔住んでいたマンションのすぐ近く
バスはぼんやりと信号待ちで停まっている

寝坊して何度も走った駅までの道
新作はいつもレンタル中の小さなレンタルビデオ屋
愛想のないおばちゃんのいる弁当屋
子猫を拾って帰った裏通り
冬になるといつもホットココアを買った自動販売機
焼きそば"だけ"が美味しい中華料理屋
しょっちゅう釣銭を間違えるバイトのいるコンビニ
酔っ払って吐いた電柱
世界チャンピオンがたまに顔を出すボクシングジム
手をつないで歩いた公園沿いの道

過ぎてしまった時間
おれが置いてきた街

決して
決してあの頃に戻りたいとか
そんな風に思っているわけではないのに

決して
決して戻ることのできない時間が
やたらと愛おしく思えて

そしてバスは
走り始める
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