メシア/ホロウ・シカエルボク
 

きみの苦しみのことなどおれは知らない
たとえばきみが家を失ったとしても
(気の毒にな、でも、おれじゃなくてよかったな)
そう
思うだけだ
だから
おれはきみには手を差し伸べない


もしも
おれときみの立ち位置が逆になったとしても
おれは人前でつらい思いを吐露したりしない
「こんな目にあった、何もかも無くなった」
なんて
ぐずぐず泣いたりしない
だから
きみはおれに手を差し伸べなくていい


とかくこの世は
ヒューマニズムに脅迫されて
自分が痛くない程度の助け舟を
出さなきゃいけないような気分になる
他人の人生に手を差し出すなら
自分の人生を捨てる覚悟をしなくちゃいけないのに
ねえきみ、悲劇は無限にあるよ
無限の悲劇の前で
きみは選択をしながら誰かを助けるのかい

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