黒くはるかに/若原光彦
ありとあらゆる愉しいもの
俺の前に待て
俺が死んだ翌日に咲け
昨日のことなど打たせてしまえ
喪失を喪失したひどさ伏せて
地上をきれいにしてしまえ
違和感を殺し合え
またありとあらゆる苦しみごと
俺の前に待て
俺をおどらせ俺にくらわせ
手持ちのかなしみや怖じけをふるえ
さとい俺にはよく効くだろうとも
俺は嬉しくてたまらない
訪れのしなりがその炙り漿水が
甘くてうまくてこそばゆい
俺へ書き写される光栄に
どこまでも不可知な禍福ども
俺の宇宙に棲まえ
そしてありとあらゆる穏やかなもの
俺の前に広がれ
俺のものすぎて捨てたやつと
つねに思い違いさせろ
透いたどくろが到頭きたか
のびた日影がじゃらけたまでか
看過ごすぐらいに引きつけて襲え
一般にそれは歓喜とあだされ
俺はなんたる卑劣と猛ぶ
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