猫次郎/やまうちあつし
た
ところが少し言葉を交わしてみると
猫は存外常識がある
職場の同僚たちよりも
よっぽど物がわかっている
天気の話、政治の話
病気の話、神話の話
会話は殊の外、弾む
そして我が家のガレージに
車を停める段階になると
猫は決まって眠っている
すうすうと寝息を立てて
あんまり気持ちよさそうなので
そのままにして
夕食後に残飯を持って車を覗くと
姿はない
こうして猫と私の
奇妙な帰路は繰り返された
☆
あるとき猫は言う
「あなたはどうも
いろんなことを知ろうとしすぎる
いきものが生まれて
この世を去るまで
知るべきことは
ひとつか
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