春から/ふるる
春は
どんな味か
東子さんという人がいた
はること読む
読書好きの父親がつけた名だそうだ
和歌とシェークスピアが大好きな人だったがある日
蒸発した
一箸の若草色
おめでとうなのか
ありがとうなのか
それすら混同する九十五歳の祖母がいて
心はなびく
その祖母の言うなりに
仏文科に入った母は
ジイドの「狭き門」を卒論に選んだそうだが
母からフランスらしき話を聞いたことはない
私にしても
建築学科卒だが
それらしき話を誰かにすることはない
聞くことも語ることも断片で
それぞれのピースを誰も彼も好きにつなげて遊ぶ
たらの芽の苦みを好む
娘は春から建築学科に通う
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