すくわれない/坂本瞳子
何度も後ろを振り返り
何度も後退りをして
それでも前を見て
進もうと思う
転ばないように気をつけて
それでも転んでしまうときもある
飛び越えようとした水たまりを
飛び越えることができず
たくさんの泥を跳ねてしまい
お気に入りの白い靴を
泥塗れに汚し
惨めな気持ちで踏みにじられ
晴れることのない心を抱えたまま
とぼとぼと歩き続けているところを
強い雨に打たれ
横殴りの激しい風に吹き付けられ
雷が堕ちるのを目の当たりにし
これ以上怖い目に遭うことはないだろうと
心に言い聞かせて歩を進め
足音を立てず自分を追い越して行く黒猫に慄き
その尻尾を引っ掴んでやろうかという衝動に駆られるも
叶うことなく
雨の中を今少し歩き続ける
重苦しい鼠色の深い空に覆われて
くぐもる雷鳴が唸るなか
晴れ渡る空など忘れ
虹やオーロラなど夢の向こう側と
諦めを覚える
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