河童伝説/yo-yo
久しぶりに親父に会った
釣ったばかりの岩魚をぶらさげて
山道を下りてくる
祖母が語ってくれた河童に似ていた
親父とはあまり話をしていない
秋になって
川から山へ帰ってゆく河童を
村人はセコと呼んだ
そんな河童のことも知らなかった
親父は俺よりも1センチ背が高い
肩幅も広いし脚も長い
草の匂いと水の匂いがした
人間の臭いもきっと
親父のほうが濃いはずだ
おふくろは河童を嫌っていた
親父の髪が薄くなったのは
河童のいたずらだという
腐った鯖のはらわたで団子をこねて
親父はいそいそと夜釣りに出かける
川には尻を吸いにくる河童がいるという
雨あがりの山道には
牛が残した足跡の水たまりに
千匹もの河童の目が光っていたという
そんなものを見た村人はもういない
じつは親父もとっくに死んでいる
頭のはげたセコの話をすると
老いた雌の河童が泣いたという
親父とはもっと
だいじな話をしたかった
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