弥生の星空/忍野水香
 
明日がやってくるのは
当たり前のことではなかった
何気ない毎日は
奇跡にも近いことだと
あの時 初めて知った

幸せだった頃の面影を求めて
昔住んでいた辺りを訪ね歩く

太陽は山の向こうに隠れ
夕闇が迫る
すでに東の空には
星が美しく瞬いている

あの日もそうだった

春まだ浅く
冷たい空気が大地を包み
夜半 漆黒の空に
星が美しく輝いていた

ささやかな幸せさえ打ち砕く
地上の惨劇とは裏腹に
星空がやけに美しかったことが
私の記憶に鮮明に刻印されている

それは生まれて初めて見る
美しい星空だった

弥生の空に輝く満天の星々は
あの日 天に召された
数多の魂 だったのかもしれない

今も星空を見る度に思い出す
けれども あれほど美しい星空は
これから先
もう 二度と見ることはないだろう

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