気球/「ま」の字
 
地が続く
やがて朝日に 塩の湖がかがやきだす時分には
ゴンドラのすみで固くなった脳裏に
みしらぬ者らの記憶が
しろく なつかしく
映りつづけていることだろう

「ほら 遠くで文字が降っています
「よそごとです
 追いついては ほしくもないです



  3 小旅行


行楽地で見かけるような ちいさな気球だ
ゴンドラから
手を振るわたしたちの姿がのぞいている

ひとときの遊覧は
ほんの目と鼻のさきの 
旧跡めざす小旅行
ほほえましい光景
ほほえましい人びと
そうして
とびたった気球の下を
雄大な紅葉にふちどられた湖沼がながれてゆく
ざらざら、ざらざら
凄いはやさで
ながされてゆく
滔々と
人などどこにも住んでいない
さむい
もの凄くはやい さむい 

手をふるわたし、わたし、わたし、たち

たすけて
たすけて

さけんでいるようにもみえる

わたし、たち

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