気球/「ま」の字
1 ある青年
この強力なバーナーから騰がる炎の熱を蓄えた
おおきな布袋(ふたい)で空にのぼるのだ
「トーキョーだかニッポンだか知りませんが
ぼくには十世紀まえの遺跡です」
点在する草叢(くさむら)を背に
青年は意気軒昂だ
目的地はどこだと尋ねると
やはり此処と似たうす蒼い遺跡だという
(え?)
ここは臨海地域のふるい都市だった
錆びた重機といくつものビルが立ちならぶ湾岸から
崩れた烽火台が いまも点々とみえている
民はほぼ絶え
王と王女がさいごを暮らしたという宮殿が
このすぐさきにのこっている
君の
旧ぼけた技術(てくのろじ)によ
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