筆と響き/木立 悟
おまえではない
おまえではない
絵の具を燃やす手
土に火の絵を描きつづける手
隠れていた猫も虫も去り
原はどこまでも静かになる
鳥も鳥を話さなくなり
常緑樹のなかでうなずくばかり
双つの羽の片方が
速くはばたき溶けつづけ
後には何も残らない
雪の穂のように残らない
狼 狼
聴こえぬ光
はざま埋める色
狼 狼
点滅を読む指
境いめを越える指
穏やかで冷ややかな
雨のつらなり
夜の子の声
滴の音
光は吼える
鈴と鈴を結ぶ声
窓の外の暗さだけが
此処が何処かを教えている
消えてしまった狼の断片
内に内に内によみがえる
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