見たこともない町/宮木理人
彼はおもむろに、誰もが見たことのない缶ジュースを誰もが見た事もない飲み方で飲み干した。
ぼくは越してきたばかりで早く友達を作りたいと思い、彼が見せてくれたそのアグレッシブな飲み方に多少大げさなリアクションで驚きの表情を見せた。が、彼はいたって冷静にそれを受け流し、彼だけでなく同じ場にいた彼の母親も、兄弟も同じく一切の無表情で、それどころか皆次々とさらに新しい飲み方を披露した。
一番上の兄は青いカルピスをベンチプレスで自己新記録を出しながら飲み、その下の弟は化石が浮かぶ紅茶を社交ダンスを踊りながら飲んだ。その下の妹は宙に浮かぶミルクを床に叩き付けてから飲み、母親は3mあるコーヒーにふとんを干
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)