花火/宮木理人
うねる部分をしっかりと掴みながら、真っ赤な空間を移動している。まるで傷口に向かってまっすぐに出動する血小板のように、使命感を担ったスピードを緩やかに感じながら、前進していく。どこに行くのか分からないが、なんだか心強い。
あの夜のおじさんは、缶ビールを飲み終わるとそれを足でつぶしながら、隣にしゃがむぼくに対してなにやら壮大な人類の歴史を語りだした。ぼくは一応聞く姿勢でおじさんのほうに体を向けたけど、意識は上の空で、実際に斜め上のほうの空に気を取られていた。そこには遠くの町であがっている花火が音もなく点滅していてた。
おじさんはそれに気づかずに、ぼくのほうを見ながらずっと語り続けていた。
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