木枯らしが吹く前/坂本瞳子
 
空気の冷たさは
ただそれだけのことで
なんの期待も
後悔をも振りまくことはなく
消えることもない

あの日の涙は
嬉しかったのか
悲しかったのか
知るよしもないけれど

滴の記憶は
いまもまだ
宙に浮いたまま

後ろを振り向くことも
前に進むこともできず

もう少し想い出に浸っていようと
自らを慰めて
秋の夕暮れを過ごす
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