卒塔婆を背負いて山をゆく/渡辺八畳@祝儀敷
 
った草の感触が足を侵す。
湿った卒塔婆は私の背に吸いつく。
墨染の蛇たちは私を冷たく見下ろす。
街からの鮮やかな喧噪は葉で遮られている。
ねっとりとじめじめした山肌を踏みしめ、
闇に溶け込むが如く忍び歩く。

そして誰も見ない山奥に着いたら、
私はそこに深々と腰を下ろす。
草葉からの湿気でひどく息苦しい。
背中の卒塔婆を両手でがっちり掴み、
高々と上げた。
板目は月の光に鈍く答える。
私は卒塔婆を、墓に刺さっていたほうから、
文字の書かれている先のほうへと、
ゆっくり順々に舐めていく。
黒い蛇たちは私の唾液にぬれてつややく。
卒塔婆に付いた泥が口の中に入っていく。
泥は粘膜を汚していく。
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