とある湿原にて/山人
なにかを期待するわけでもなく
木は透明な思いで空を見上げていた
野鳥の尖った飛翔が
空間を切り裂くのを楽しんだり
みずからが浄化した
清廉な空気を謳歌している
人がまだいない頃
木はみな足を持ち
好きなところへ歩いていた
しかし、とてつもない罪でも犯したのか
木は今、足さえ持たず立っている
その寂しい木をなぐさめようと
名も無い地衣類やら
苔やらが樹皮をつつみ
野鳥がからだの隅をつついたりして刺激してくれる
風は、少し動きが固くなった部分をゆさぶり
体液をうながしたりしている
冬になるからといって寂しいわけではない
雪が降るからといって目をつぶっているわけではない
あきらかに言えるのは
なにかを期待するわけでもなく
ただ、待ち続けるという事なのだ
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