アルス・コンビナトリア 追加シーン/がらんどう
ちを。もはやこのゲームには勝ちと負けしかないんだから。どちらでもない、何も起きない状態に留まることは出来ないんだ」
「なあ、ヨハネよ。人間は・・・人間はどこへ行ったのだ?・・・」
ペテロのその言葉から目を逸らすように港の方を眺めていたヨハネは、海が沸き立つのを見た。
おお、なんということか! 海が割れると死んだはずのイエスが頭骨に髪を貼り付けたずぶ濡れの姿で現れ、ポケットから取り出した十字架で二人を殴り殺して海へ放り込んだ。するとどこからともなくネズミの大群がプレスブルグの町へ押し寄せ、イエスもろとも町を飲み込んでいく(ちなみにイエスの最後の言葉は「これがホントの濡れ鼠」であった)。立派なセットであるかに見えたプレスブルグも、裏に回ればプレハブ同様の建築であり、遠景に至ってはベニヤの書き割りでしかなかったのが、ネズミの海の中で見える。
見える・・・誰にだ・・・誰が見ているというのだ・・・私は呟く。
「イエス、あんたは魚なのか人なのか、それとも人魚か、人魚を食ったのか。いずれにしても、私は孤独であるが故に不死である。という私の言葉を誰が聞いているというのだ」
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