fantasy/えこ
広い世界を空想する度
嗚呼
なんて世界は狭いのだろうと
死にたくなります
空を飛んだことはありますが
空を飛んだときの気圧や
空を飛んだときの温度や
空を飛んだときの痛みや
空を飛んだときの高揚を
感じたことはないように
海に潜ったことはありますが
海に潜ったときの水圧や
海に潜ったときの温度や
海に潜ったときの痛みや
海に潜ったときの絶望を
感じたことはないように
私は生きていて
この物語は生きてはいないのですが
感じることのできないものを感じ
文字が脳内で風景になり
命のないものが動き出す魔法に
どうしようもなく興奮し
その本を閉じたときの失望感に
死を意識させられてしまうのです
私は空を飛べませんし
私は水圧で凹み死にますが
私は拳銃を人に向けたこともなく
それどころか薔薇を千本束ねた告白も
拳を交わし深まった友情すらないのです
風邪を患いました
もう三日も経ちます
この本にそんな些細なことは描かれません
ですがこの三日
私は些細な風邪で気分が落ち込み
死にたくなります
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