化けの皮は剥がれることなく/坂本瞳子
 
暑くも涼しくもない
温い夕暮れが始まり
秋の気配が漂う

雨の匂いが充満し
風が強さを増す
嵐の前の静けさは
不気味なことこの上なく
薄暗い雲よりも
私の心がざわつく

今宵は月が見られない

そんなことに渇きを覚え
自らの異常性を認識し
暴れ出しそうな欲望を
力のかぎり抑えつけて
それでも平然を装って
ごくありふれた日常を過ごす

戻る   Point(0)