絵心/やまうちあつし
 

待機する職員もなぜか気付かない
展示室の出口付近
かかっていたのは一枚の風景画
穏やかな色彩で
木立が描かれた小品だった
この絵からはどんな、と
ふりかえると女はいない
いつの間に消えたのか訝しみ
壁の絵画に視線を戻す
すると
緑の木立を背景に
赤いワンピースの女が描かれている
もう何も話さないけれど
にっこり笑っている
とてもいい絵だ
しばらくぼんやり立ち尽くし
美術館を後に
そして自分の絵の中へ
戻っていくことにする

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