夜と傷/木立 悟
 




風を横切り
聞こえる唄
暑くも 寒くも
ひとつの唄


やがて雨になる眠り
薄く重く揺れる原
灯る花は揺れることなく
ただ上方を照らしている


空の力や理が
線となって吹き荒れている
鈴の音の蒼を透し
何も無さと重なり合う


窓とともに燃える絵本から
文字だけが落ちて地に刺さる
植物でできた動物が
火の粉のなかをすぎてゆく


遠くと遠くの吼え声が混じり
光に変わり 霧に変わる
動きやかたちをふちどる黒が
白く白く消えてゆく


空から屋根から 床から地から
物から生から揺るがぬ傷が
風に触れては唄いはじめ
今も 唄いつづけている


何も見えない森を踏み
少しだけ見える林へと
夜は夜を招き入れ
無数の扉 無数の羽をひらいてゆく




















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