いつか忘れるということ/ベンジャミン
水槽の中で亀が暴れている
僕はひとり部屋の中で息を殺し
水槽で暴れる亀の手足を見つめる
透明なガラスの先にある世界を信じて
懸命に手足をのばす亀の甲羅には希望が詰まっている
絶望することを知らない生き物は美しい
僕の手足は亀よりも長く器用で美しい
仮に僕の手足を亀に与えたならば
亀は水槽を抜け出し自由を手にするかもしれない
仮に亀の手足を僕が与えられたなら
僕はこの部屋から出ることもなく
窓にしがみついてガラス越しの世界に憧れるだろう
僕の背中には甲羅がないのだ
怖いものから身を守るための鎧を持っていないのだ
そしてそこに希望を詰め込むこともできない
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