fool‘s gold/ひさし
 
ビッコは線を引くようにゆっくり歩く
道端に座り 静かな笑みをつくって休む
ビッコのまわりは街の喧騒とは無縁だ

この街には一年中実をつける樹がある
どこにいても鮮やかな赤やオレンジが目に入る
たとえば教会の入り口に
たとえば小さな女の子のいる家のベランダに
たとえば図書館脇の公園の隅に
たとえば老婆がひとり暮らす家の庭に
街の人々は少なくとも日に一度 樹の前を通る
だが誰も気になどしない
名も知らない
ここだよの樹ってんだ
一度ビッコのつぶやきを聞いたような気がする

雨に負けて
風に負けて
暑さや寒さにも負ける
それでも 歩く
びっこを引きながら
一日中歩く 座る
歩くってのは少し止まるって書くんだ
ここだよの樹にもたれ 独りごちる
誰にというわけでなく 自慢げにほほを緩ませる

ビッコは線を引くようにゆっくり歩く
その線はぎこちなく悲しげだ
でもボクたち野良は きれいだなぁと思うんだ



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