梨 (二)/Six
 
あきれたことに
男の料理のうるさいこだわり
重症であるとみた
牛の脛肉やすじ肉を
すりおろした梨で煮込むビーフシチュウ
たった2時間で出来るのだと
得意げな彼

不吉なオレンジ色の月が
大きく歪んで窓ガラス越しに見える
街の灯りが不安じみて瞬く夜
いつの間にか後ろにいた彼は
「いいお月さんだね」と
そういえばやたらでかくて
大味な梨を昨日食べたっけと
わたしは思い出すのだけど
「そうそう、その梨がビーフシチュウに最適」
またもや得意げな彼

彼の声はわたしの心臓の鼓動の遠く向こうから聞こえてくる

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