失踪するための/北井戸 あや子
 

何故なら笑って話す出来事がない
一家団欒が欲しかったような気もするが
それを嘆いて夜中に刃物で切りつける手首もない
中一で死んどけばよかったと思い続けて
未だに生きている
クソみたいに毎日を消費して
懺悔したくても払う金がない
毎晩襲いくるくせに
憂鬱は私を潰してはくれず
自分自身にすら見放されたかと
廃墟と化している精神で夜を過ごす
自己憎悪の泥濘はずるずると手招きをしている
抵抗する理由はない
私は私を殺してやりたいから
昔よりこの泥濘は
随分なめらかになったなと
頭の先まで埋もれふと見上げた先で
落胆する私を尻目に
また朝があった
細く眦を抉る陽とそこに想起される色濃い過去へ
おそらく私は、別れなど告げはしないだろう
のしかかる記憶の質量、怒り、そして朝
すべてを背に負って、狭い坂道を行くんだ
ぽつねんとひとりで
サイズの合っていないスニーカーの隙間や
そこから伸びる影へ
ありったけの言葉を殴り書きながら
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