失踪するための/北井戸 あや子
 
病院帰りにコンビニへ入り
いつものように雑誌コーナーへ向かい
いつものように
立ち読みしている学生に
カロリーをチェックしている女に
記号化した挨拶を繰り返す店員に
社会を回している奴らすべてに向け
殺してくれと念を送る
読み終えた少年誌を戻して煙草を買う
入り口に血は落ちていない
駐車場に私の死体は
ゴミのように転がってすらいない
その事実を踏み締めていや踏みにじり
情けなさを隠すように鞄を掛けなおす
ぐちゃぐちゃで重いこの頭を
颯爽と吹き飛ばしたいのに
飛び込むどころか駆け込んだ電車に揺られて
気が付けば今日も無傷で家に帰っている
無言で晩飯を食うしかない
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