詩人の死/大覚アキラ
そして、詩人が現れた。
詩人は、ただその場に佇んでいた。
何かを語るわけでも、何かを演ずるわけでもなく、
少しだけ俯いて、その場に佇んでいた。
視線に晒され、嘲笑に嬲られ、罵声を浴びながら、
それでも、詩人はその場に佇んでいた。
短く、乾いた銃声。
人々は静まりかえり、倒れた詩人を取り囲んだ。
夥しい量の血が詩人の身体を呑み込んでいく。
緩慢な死に抱かれながら、詩人は何故か幸せそうに見えた。
やがて、人々は死にゆく詩人を眺めることに飽き、
誰もが醒めた顔付きで、その場を立ち去っていった。
それっきり、詩人のことを思い出す者は誰もいなかった。
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