GRADUATION/草野大悟2
よ、掃除機かけるんだから! じゃまじゃま!」
! 連続の明快な即答。ぼくは掃除の邪魔なのだ。
いつも庭に遊びに来るオレンジ色の小さな鳥(金糸雀に似ている)が、心の中に飛んできた。ぼくを慰めるつもりらしく、盛んに詩を歌う。
放っておいて欲しい。それよりぼくは、あなたに構って欲しい。
白くて丸い自動掃除機ルンバが、居間に広がる海の上をプカリプカリ漂いながら、細かな漂流物まで除去していく。時々、海の果てまで行って、はっ、危ない、とでもいうようにピタリと止まって、回れ右をしながら。
ゆるゆるとした空間が好きなら、その空間を大切にすることだ。
そこから一歩も出ずに、ゆるーく過ごせるのなら、もしかするとそれが一番幸せなことかもしれない。
陽だまりの猫のように、ほかほかの光に包まれて、時々、ふわぁー、と大きな欠伸なんかして。でも、食べ物がなくちゃ生きていけないよ。それに、少しばかりの矜持もね。
それにしても、今日は、なんという日だ。
空も、雲も、雪も、海も、風も、鳥や、獣や、魚や 季節や常識さえも、己という存在から晴々と巣立っていく。
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