kissはチョコの味/渡辺八畳@祝儀敷
 
音は
生物を命あるまま砕いているかのようで
変わらず鮮やかに光っている電球は
工場から漏れ出た屍の怨念ではないだろうか
首を回して目を逸らすこともできない
私は生きていないかのよう
暗闇に薄く見える自室のカーテンや天井たちは
昼間と全く変わらない様相で静かに眠っているが
対して機械音は容赦なく増していくばかり
存在感は異空の穴のよう重く
その一点だけが歪んで見える
血のようなチョコの臭いはいたずらに鼻腔を刺激し
体躯を真っ直ぐに伸ばしている私は蝕まれるよう犯される心地だ
筋肉が収縮する 心臓だけが興奮している こわい
浮遊している工場は
化物のような金属音を急停止させたかと思うと
鉄門を開放し中から尾を引いて
白肌の魔女が出てきた
発光しているかのようなブロンド髪と青い瞳が
動けない私の顔を捕食するかのよう撫でる
魔女の口にはできたての小さなチョコがくわえられていて
そのまま私の上に飛び乗り 甘いキスをした

視界さえも消えた
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