終電/獏
皮脂で汚れ切った車窓越しに
遠ざかる
街の灯を眺めている
真っ当に生きて
正しく幸せになることが
こんなにも簡単だと気付くまでに
随分と
遠回りをしてしまった
片道分の切符と
一人分の体重が座席に微睡んでいく
揺り起こされるまで
最後のアナウンスが流れるまで
この電車が止まるまで
どこまで
この身体で行けるだろう
雨が上がって
いつか
帰り道さえも忘れてしまった頃に
私はどこにいるのだろう
日々を乗り過ごして
満たされる錯覚に沈む
空が好きで、クラゲが好きで
ほんの少しのスパイスを夢見るような
普通の女の子に
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)