宇宙暗黒物質言語域で何度も私ではないと遺棄されるものとは/北街かな
ずっと続いている
肉体的にはとっくに生まれているのにいちどもきちんと生まれたことがないんだ、
どれだけの言葉を尽くしてきたのか指先は文字だらけで霞んでいて何もみえない
振り返っても仰ぎ見ても深く見下ろし覗き込んでみても不在に覗き返されるばかりで
どこまでも空洞がひろがっている
トンネルにこだまし続けるなぞかけの輪唱が
複雑怪奇な鍵穴に結晶して
何を発言しても解き明かせない牢に未完成の生命をずっと閉じ込めている
なぜ言葉はここに在るのかと猫はしっぽだけになり
宇宙は壁際でずっと膨らみ続けているんだ
それは完成した肉体の姿を象ろうと必死に物理法則を打ち立てていて朝から晩までやかましい
黙らせろ
鳴くな
私はオーロラのすその影の残滓をかき集めてそっと隠れるように眠って
優しげに鳴く猫を寄越せ、そうでないと人にもなれぬのだと檻の格子をつかみ
心臓の中で斜めに潰してエクサスフィアのごみに変えた
にゃーにゃー、にゃー、
宇宙は
ずっと外耳の縁で生き生きと猫が鳴いている。
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