壊れた天使を抱いている/やまうちあつし
俺の天使は壊れている
仕方ないのだ
数年前にかっさらってきたやつだから
金に困っていたあの頃
街中をうろつく中から適当にみつくろい
ボストンバッグに押し込んだ
その頃はまだ
頭上の輪っかも点滅していた
身代金の電話なら
日に三度かけた
けれども返答はいつも同じ
「まったくその通り」
それからだんだん壊れ始めた
俺のせいじゃない
ぐらり揺れながら
だらり垂れさがり
頬はかさつき
羽根は抜け落ちて
瞳をのぞくと満天の星
思わず吸い込まれそうになり
俺は思わずのけ反っちまう
誰に追われるわけでもないが
世界中を転々として
行く先々から電話をかけた
エッフェル塔に腰掛けて
スフィンクスの目を盗み
黒い翼のむこうにはふるさと
身代金は今では膨れ上がり
地上の金額じゃ言い尽くせないほど
「まったくその通り」
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