その街は/もっぷ
いでください
たとえばたとえどこへ行く切符売り場を探そうと
でもたぶん片道分しか手持ちがありません――という
かすれ声にさえも振り向かれずに
そういうふうに訪ねてみたいそこは父さんのお墓のある街
いったいどこなのか何一つ知らないままに
実はきっと渋谷なのだと決めてみたい
そうそう広尾の日赤でしょう
その敷地の隅っこにたったいま咲いている
菫でしょう
長い旅をしてぐるっと巡って辿り着きました
わたしの故郷ですと他様に紹介する病院の建物と
最も近しく並んで咲きたい花のその下にこそ父さんの骨は
いっぱいまとまって埋けてあるのでしょう
長い旅をしてぐるっと廻って辿り着きました
こんな姿でしたからここまでも見逃されました
本当は
見逃したのは自らを縛っていた私自身だったのです
本当は何もかもを最初からよく判ってはいたのです
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