春/倉科 然
 
散りゆく桜がとても綺麗だった
灰色から薄紅色
薄紅色から新緑に移り変わる頃
私の世界がモノクロに変わったあの頃

今思えばあの頃が私の世界の分岐点で
散った花びらは数あれど
掴めやしないその一枚

どうせなら散りゆく前に自己帰結を試みたかった私は
綺麗なものに生と死を感じる様になり
ビル群には唯物論的な嫌悪感を感じる様になった

諦めきれることと諦めきれないこと
死にきれないことと自身の欠落
その全てを気温と湿度の上昇が包み込み

私は明日も生きていくのだと
掴めなかった薄紅色を思い浮かべるのだ
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