高層ビルの展望室/坂本瞳子
高層ビルの展望室が好きなのは
地上に降り立ち
展望室を見上げ
あんなにも高い所にいたのだと
あそこから美しい景色を眺めたのだと
余韻に浸ることができるからで
高い場所に居続けること自体は
ほんの少し
恐怖感を覚えるくらいのことだ
高速エレベーターに
窮屈な想いと共に閉じ込められ
外国語ばかりでなく
耳慣れない言葉や音が行き交い
さらにはキンと詰まる感覚を回避できず
息を潜め
鼻息を抑え
居心地の悪さを感じることのない
距離を周囲から保つことさえ禁じられ
それでも展望室へとまた向かう
それは地上へ降りてきたときの快感を
何度でも味わいたいからで
否定
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