三月/もっぷ
 
壁に掛けてある日捲りでは半ばを過ぎていた
三月がはにかんで 窓から顔を覗かせていた
もちろん 部屋の居心地を気にしつつ招くと
顔を赤らめて おずおずと隅っこに座り込む

外は白日 お財布を持って玄関をあとにした
ケーキ屋さんでレアチーズケーキを二つ買い
簡単でよいからとお願いしたリボンは瑠璃色
帰りの並木道をなんだか初めてのように感じ

ながら三つ四つ深呼吸もしてみたし 家路は
いつもとは違った輝きに満ちてまばゆかった
キッチンにある大切な食器のなかからと選び
フォークと洗い立てのリネンのクロスも手に

リビングを兼ねた自室に三月は 彼女はもう
いなかった けれどパソコンには「春の夢」
という一篇が打ち込まれてあり その最後に
あなたへ、ありがとう。どこからかショパン


長いような短いような時が経って気がつくと
ケーキが一つ消えていて パソコンには一篇
が確かで ショパンは歌い続けている 春は
これからなのに三月は 儚さの影をも連れて


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