あの娘の胸に赤いバラ/ホロウ・シカエルボク
 



おそらく期限切れのアンフェタミンがもたらしたのは
誰かを執拗に切り刻む紙芝居
生温かい数グラムの血しぶきが頬にへばりつく感触だけが
この世界で唯一変動しない価値のように思えた


シェットランド・シープドッグと短いリードで繋がって
回遊魚のように公園をジョギングしていたあどけない少女のような顔見知りを見かけなくなって三ヶ月
窓際のラジオは脳梗塞で逝った父親みたいに
白い煙を吹き上げてウンともスンとも鳴らなくなった


ゴミ捨て場に廃棄された園芸用の大きなネットに絡まって
まだ目も開かない子猫が絶望していた
「ここに埋葬されるつもりか?」そう問いかけながら

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