逃すまじ/坂本瞳子
頭を空に向けて六十二度くらい傾けたまま
動けなくなってしまった
顎を前方に突き出したまま
後頭部が後ろに傾いたように
六十二度が保たれている
右足をもう少し前に出すと
バランスが良くなるだろうか
左腕もう少し上げてみようか
きっともうすぐ後頭部が
地面と平行になる
後ろの人たちに
自らのツムジを見せつけたいかのように
このまま足元から宙に浮いていくんじゃないか
そんな気さえしそうだけれど
眉間に深い皺が入りそうで
だからといって真っ直ぐに向き直る必要性も感じていない
歩けやしない
歩きたくもない
このままでいい
このままがいい
否よくない
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